「精霊の守り人」 上橋菜穂子

精霊の守り人」のあらすじ 

老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。 【「BOOK]データベースより】

 

精霊の守り人」の感想

  児童文学として執筆されたファンタジー小説です。「精霊の守り人」は、綾瀬はるか主演でNHKドラマとして放映されていました。小説を読んでいなくても、ドラマで知っているという方は多いかもしれません。

 この小説は児童文学というジャンルで括るべきものではないと思います。もちろん子供が読んで楽しめるものですが、大人が読んでも十分に楽しめるファンタジー小説だからです。

  ファンタジー小説というと異世界が舞台です。そして、異世界はどんな設定でも可能ですし、現実に存在しないどんなものでも存在させることができます。

 だから、逆に、舞台となる世界に読者を引き込むのは難しいと思います。あまりに突拍子だと引いてしまいますから。

 その点、著者のこの小説における世界観の構築は素晴らしい。

 ベースは東アジアの雰囲気が漂う世界だと思います。その段階で、我々日本人にとっては、馴染みやすい世界となります。ファンタジー小説というと、西洋世界を舞台にしているものが多くある中で、このような東アジアの雰囲気を漂わせる世界観はとても新鮮です。そして、そこで生活している人々の日常が、細やかに描かれています。

 

白米のうす板をまげてつくられている弁当箱の蓋をとると、良い匂いが立ちのぼった。米と麦を半々にまぜた炊きたてのご飯に、・・・ 

 

 小説の中の日常が手に取るように、頭の中にイメージされます。このような描写の中で、読者はどんどんこの世界に引き込まれていくのだと思います。

 そして、この小説が子供だけでなく、大人も楽しめる要素は、単に精霊の卵を守るというだけの活劇ではないというところです。

 「新ヨゴ皇国建国に関わる歴史の歪曲」「先住民ヤクーとヨゴ人の確執」「権力によって犠牲にされようとする者」「貧富の差」

 これら現実に起こりうることを、このファンタジー世界に書き加えることで、精霊という存在しないものを扱いながらも、抵抗感なくのめり込んでいってしまうのだと思います。

 そして、この小説の最大の魅力は、登場人物たちです。主人公である「バルサ」、第2皇子「チャグム」を始め、登場する人物すべてが人間としてとても魅力的です。

 主人公バルサについては、

  

 バルサは今年三十。さして大柄ではないが、筋肉のひきしまった柔軟な身体つきをしている。長い油っけのない黒髪をうなじでたばね、化粧ひとつしていない顔は日に焼けて、すでに小じわが見える。

 

 と冒頭に書かれています。30歳はファンタジー小説の主人公としては、かなり年齢が高いと思います。しかし、このことも、この小説の魅力の一つだと感じます。

 登場人物は少なめです。子供が読むことも考えて、混乱しないように少なくしているのかもしれません。しかし、登場人物が少ない分、それぞれの人物の描写が細やかになり、心の機微も読者に伝わってきます。 

 物語は、テンポよくスピード感溢れます。特に、戦闘シーンにおけるバルサの戦いぶりは目に映るようです。鬼のように強いバルサでありながら、戦っていない時のバルサは、どこか悲しげでもあります。一人の人間のいろいろな面を見せることにより、人間としての厚みが増していくように感じます。

 ボリュームはそんなにないので、読み始めればすぐに読了できると思います。この完成度の高い和製ファンタジーの世界は必読だと思います。

 文庫の解説では、恩田陸さんと神宮輝夫さんが「精霊の守り人」を絶賛しています。私も同感です。

 この小説はシリーズ化されています。守り人と旅人で、10冊です。この和製ファンタジーをあと9冊読めると思うと、ワクワクします。

 

 実は、ドラマは見ていません。一度見てみたいとは思いますが、30歳のバルサ綾瀬はるかが演じているので、イメージが壊れないかなと心配です。なので、全巻読んでからにしようと思います。

 

精霊の守り人 (新潮文庫)

精霊の守り人 (新潮文庫)