「夢幻花」 東野圭吾

「夢幻花」のあらすじ 

花を愛でながら余生を送っていた老人・秋山周治が殺された。第一発見者の孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えた黄色い花の鉢植えが気になり、ブログにアップするとともに、この花が縁で知り合った大学院生・蒼太と真相解明に乗り出す。一方、西荻窪署の刑事・早瀬も、別の思いを胸に事件を追っていた…。宿命を背負った者たちの人間ドラマが展開していく“東野ミステリの真骨頂”。第二十六回柴田錬三郎賞受賞作。 【「BOOK]データベースより】

  

 「夢幻花」の感想

 著者の頭には、溢れるほどのアイデアが詰まっているのでしょうか。あれだけの量の小説を書き続けながらも、まだこれだけのアイデアを駆使した小説を書くのだから、本当に驚きです。

 著者は、この「夢幻花」について、

 

   「こんなに時間をかけ、考えた作品は他にない 」と言っています。

 

 著者が、自信を持ってそう言いきるだけのことはある作品だと思います。

  

 東野圭吾氏らしい緻密なストーリー展開、伏線の張り方、そしてそれらを一点に収束し解決させる手腕は素晴らしいと思います。まるで、ジグソーパズルを組み立てていくような感覚です。バラバラだったひとつひとつのピースが、徐々に組み合わされ一つの絵を完成させる。しかも、その完成した絵は、全く予想外のもの。夢幻花を読んでそんな感覚を覚えました。 

  

 「夢幻花」は、東野作品の中でも、登場人物が多い方だと思います。登場人物が多いので、伏線となるだろう出来事も当然多くなります。それらの伏線となる出来事が、どのように繋がってくるのか全く予想がつきません。なので、どんどん先へと読み進めていってしまいます。

 一方、話が複雑化してくると、話の本筋を見失ってしまう危険もあります。しかし、そこは東野氏の抜群の力量で、読者を混乱に陥れるようなことはしません。

 混乱に陥らない理由のひとつに、「黄色いアサガオ」という物語を貫く一本の柱があるからだと思います。この「黄色いアサガオ」がこの物語の謎の原点にあるからです。この原点があるから、読者も読んでいて、迷子のように訳が分からなくなることはないのだと思います。

 

 ミステリー小説には、謎が謎を呼び、謎だらけになって、読んでいて何だか分からなくなるようなものもあります。そういう小説は、読んでいて疲れるんです。複雑にして、読者に最後まで真相を悟らせたくないという気持ちが働くのかもしれません。

 しかし、この小説は、登場人物の多さと謎の多さは際立ちますが、読みやすいです。読み返さないと分からないようなことはありませんでした。かといって、結末が容易に分かると言うこともありません。最後には驚愕の真実をきっちりと用意しています。

 そして、登場人物たちも個性豊かです。この小説に登場する人物は、みな、心に傷を負っています。彼らの葛藤も描いているから、単なるミステリーに留まらず、ヒューマンドラマとしての側面も出てくるのだと思います。物語に厚みがあります。殺人事件という非日常を描いていますが、登場人物の人間味をきっちりと描くことで、この物語に現実感が伴うのだと思います。

 それに加えて、違法薬物問題と原発問題についても、訴えかけようと意図しているのかもしれません。読んでいただければ、この問題提起が含まれている部分はわかると思いますが、私はあまりメッセージ性を感じなかったので考えすぎかもしれません。

 

 これぞ東野ミステリーという作品です。計算された隙のないミステリー作品です。ただ、最後にはあまりにも綺麗にまとまり過ぎて、逆に気持ち悪く感じてしまうところもありました。

 読み応えのあるミステリー作品ですが、私は「流星の絆」の方が好きです。

 

夢幻花 (PHP文芸文庫)

夢幻花 (PHP文芸文庫)