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『陽気なギャングが地球を回す』:伊坂幸太郎【感想】|史上最強の強盗4人組大奮戦

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 こんにちは。本日は、伊坂幸太郎氏の「陽気なギャングが地球を回す」の感想です。

 

 伊坂幸太郎氏の長編小説3作目。軽快なテンポと軽妙な台詞、複雑に張り巡らされた伏線と回収、結末を予想させないストーリー展開と鮮やかな終結に引き込まれます。

 銀行強盗と言えば、悪い奴のイメージがあります。しかし、ここに登場する4人の銀行強盗はあまりに面白い。自分たちが悪いことをしていると感じているのかいないのか。法律的には違反していると理解していても、銀行の金を奪うことに罪悪感を感じていません。

 そんな彼らの言動が当たり前のように感じられてしまいます。正当化できる行為ではないのですが、不思議な感覚で読み進めていってしまいます。それも一気読みで。

「陽気なギャングが地球を回す」の内容

嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女。この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だった…はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を、逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ! 奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。【「BOOK]データベースより】  

 

「陽気なギャングが地球を回す」の感想 

性的過ぎるギャングたち

 4人組の銀行強盗の設定があまりに面白い。特殊な能力もあれば、役に立たないように感じる特技もあります。4人の個性はそれぞれの能力だけで表せるものではないですが、一応言っておくと、

  • 嘘を見抜く名人(成瀬)
  • 天才スリ(久遠)
  • 演説の達人(響野)
  • 精確な体内時計を持つ女(雪子)

 最初に気になるのは、演説の達人です。果たして銀行強盗の役に立つのだろうか。そもそも日常生活を送る上でも役立つかどうか分からない。残り3人は、少なくとも役立ちそうな特技に見えます。それに、彼らの特技は予想以上です。

 成瀬が嘘を見抜くのは100%の確率です。雪子の体内時計も完璧な時計です。嘘を見抜いたり、精巧な体内時計を持っている人はいるかもしれない。しかし、二人が持っているのは完璧なものです。久遠も圧倒的な手技を持つスリです。年齢は若い。若いゆえに、彼の技は際立ちます。完璧かと言われれば、目的のものをスレない時もありますが、それでも超一流です。

 そんな一流の中で一際異彩を放つのが、響野の演説です。彼だけが極めて異質な特技です。冒頭の銀行強盗のシーンで、彼の演説の才能は発揮されます。人質の注意を引くと言う意味では役に立つと言えます。 銀行強盗で4人の才能はいかんなく発揮されているのは事実です。

 彼らの性格や行動も多種多様です。4人は噛み合わないような印象を与えながら、実は見事に噛み合っています。日常生活の中で描かれる彼らは、特技以外にも様々な個性を発揮します。特に、響野を中心に描かれています。それほど彼の個性は強烈です。しかし、それに負けないだけの個性を全員が持っています。響野と成瀬や久遠のやりとりは、読んでいると笑いを誘います。大笑いでなくニヤリとさせられる笑いです。彼らが真剣だからこそ余計に面白い。

 彼ら以外の登場人物も個性的です。響野の妻 祥子、雪子の息子 慎一、何でも用意する田中。個性的な人物の周りには、個性的な人が集まるということだろうか。誰の会話も見逃すことが出来ないほど引き込まれていきます。 

 

ステリー的

 物語の冒頭から、何らかの事件が起こっている雰囲気があります。発端は、銀行強盗の逃走時に現金輸送車襲撃犯と遭遇し現金を奪われたことです。事件に雪子が絡んでいることは明らかです。

  • 雪子が慎一の父親 地道と偶然出会ったこと。
  • 地道の人間性と彼の生活ぶり。
  • 雪子の挙動不審。
  • 慎一に対する雪子の態度の変化。

 様々な出来事が、雪子が現金輸送車襲撃犯と絡んでいることを示唆します。雪子と襲撃犯が繋がっているとしても、そこから物語がどこに進んでいくのかが分かりません。成瀬は雪子の様子に気付いています。彼はどうするのか。奪われた四千万を奪い返すのか。それともやり返すのか。

 真相に気付いている成瀬と全く気付かない響野と久遠の二人。響野と久遠が、成瀬に振り回されているようにも見えます。その場の雰囲気は常に響野に支配されていますが、物事の本質は成瀬によって支配されています。表と裏のすれ違い方が面白い。

 成瀬の企みは、徐々に予想出来るようになってきます。地道を仲間に引き込み、彼を利用して襲撃犯を騙す。ここまでは響野たちに説明することで明確にされます。ただ、それ以上の企みがあることは文章の端々から分かります。その企みは一体どのようなものなのか。何かあると思いながらも、完璧な予想をすることは難しい。 

 

快さ

 結末の爽快さに驚きます。彼らが襲撃犯を騙し、やり返すのは予想できます。しかし、こんな結末を持ってくるかと感心します。

 彼らは銀行強盗であり、清廉潔白な市民ではありません。銀行強盗と襲撃犯の戦いです。どちらが善でどちらが悪という訳でもないでしょう。それでも成瀬たちが正義に見えてしまいます。 彼らの魅力に惹き込まれているからでしょう。成瀬たちの思惑通りの結末に、喝采を浴びせたい気分になります。これまで仕込まれていた伏線の回収も見事です。

  • 冒頭の偽警官。
  • グルーシェニカー。
  • 雪子の七夕の願い。
  • 銀行の防犯訓練。

 全てが測ったように一か所に集まります。その見事さに舌を巻きます。何気ない会話や日常の出来事の中に、いかに多くの伏線が仕込まれていたのか。もう一度読み返したくなります。 

 

終わりに 

 とにかく面白いの一言です。軽快で小気味良い登場人物たちが、踊るように痛快に活躍します。 噛み合わない会話の巧みな表現とでも言えばいいだろうか。どうやってこんな会話を思いつくのだろうと感心します。その会話の中には人生の真実とも言える言葉も散りばめられています。

 映画化もされています。私は観ていないのですが、小説とは少しストーリーが異なっているようです。雪子に鈴木京香がキャスティングされているのに違和感を感じます。響野の妻の祥子が加藤ローサです。祥子の方が年上だったのでは?イメージからかけ離れたキャスティングだけに、鑑賞意欲が沸かない。観ないで批判するのも良くないですが。