毎日が読書日和ー思ったままの感想文

40歳で気付いた読書の魅力。小説から映画まで、感想を綴ります。

「墜落の夏」 吉岡 忍

「墜落の夏」の内容 

1985年8月12日、日航123便ジャンボ機が32分間の迷走の果てに墜落し、急峻な山中に520名の生命が失われた。いったい何が、なぜ、と問う暇もなく、遺族をはじめとする人々は空前のできごとに否応無く翻弄されていく…。国内最大の航空機事故を細密に追い、ジャンボに象徴される現代の巨大システムの本質にまで迫る、渾身のノンフィクション。講談社ノンフィクション賞受賞。 【「BOOK]データベースより】 

 

「墜落の夏」を読んで 

 本の正式なタイトルは、「墜落の夏ー日航123便事故全記録」です。

  タイトルの通り、1985年8月12日に起こった、日本航空123便墜落事故のノンフィクションです。当時、私は小学生だったので、この事故の記憶はあります。しかし、詳細は知りませんでした。毎年、この日になると、御巣鷹山に登る遺族の方がニュースで流れます。それを見て、そういえば子供の頃に墜落事故があったなと思い出すくらいでした。

 

 どうして、私が今になって、この日航機墜落事故の本を読もうと思ったのか。それは、山崎豊子氏の「沈まぬ太陽御巣鷹山篇)」を読んだのが、最大の理由です。この小説では、日航機墜落事故の壮絶さ・悲惨さを見事な表現力で描いていました。

 ただ、「沈まぬ太陽」は小説なので、事実に基づいているとはいえ、小説としての脚色も含まれているであろうことは想像できます。なので、墜落事故の現実はどのようなものであったのかを知るために、取材に基づいた事実をもって構成されているノンフィクションを読んでみようと思ったわけです。そして、この「墜落の夏」を読みました。

 

 この本は、1986年8月に発行されています。墜落してから、1年後です。取材による膨大な証言と物証と調査によって、事実は事実として書き、推論は推論として書いています。日航・生存者・遺族・事故調・警察・医者など。可能な限りの取材を尽くしてこの本を書ききっています。

 

 この本は、6つの大きな段落により構成されています。 

1、真夏のダッチロール

事故機(ボーイング747SR型)の機種や構造、乗務員の飛行経験、ボイスレコーダー・フライトレコーダーなど航空機に詳しくない読者にも配慮した基礎知識の説明や、お盆で混雑していたこと、最終便の1本前の便で非常に込み合っていたことなど事故当日の背景、事故発生時刻にJALが高輪プリンスホテルで開いていたパーティーの様子と事故を知らされた直後の混乱ぶり、事故後の遺体安置所の状況とJALの対応など、事故周辺のレポート。

2.三十二分間の真実

18時24分に起きた爆発から18時57分に墜落するまでの事故機内の様子や飛行状況を生存者(非番だったJAL客室乗務員の26歳女性)の証言やボイスレコーダーの記録に、自身がボーイング747SR型機のコックピットに同乗し、操縦を見学した経験を交えて詳細に分析する。また生存者の墜落後から救助されるまでの状況の証言から、事故直後はまだ多くの生存者がおり、早くから救助活動を始めていれば多くの命を救えた可能性を指摘する。

3.ビジネス・シャトルの影

犠牲者の国籍や、男女別の数、事故で母子家庭もしくは父子家庭になってしまった世帯の数など、犠牲者の分析や遺族のその後と、犠牲者が事故機に乗り合わせてしまった経緯をレポート。

4.遺体

事故機が消息を絶った約1時間後の午後8時に「日航行方不明機対策室」(すぐ後に「日航機墜落事故対策本部」に改称)が設置されたところから、搬送されてきた遺体の安置と身元確認、そして12月20日に行われた身元不明遺体の出棺式までの群馬県警察の作業記録と、遺体安置所となった藤岡市民体育館の状況についてのレポート。

5.命の値段

JAL社員と遺族との損害賠償の交渉と遺族の心情、賠償金の算出方法、他に、航空会社が事故を起こしたときのために入っている航空保険のシステムと世界の保険市場との関係、そして、アメリカのワシントン州で新法案が通り、遺族がボーイング社に請求できる賠償金に対し、大幅な制限が加えられた問題についてのレポート。

6.巨大システムの遺言

運輸省(当時)事故調査委員会が1986年3月に発表した「事故調査に関する報告書の案」の内容と聴聞会の様子、P教授分析による事故原因の発表とその証言をした背景、そして著者による原因究明とその背後にある問題の指摘。

 ウィキペディアより】

 

 航空関係者しか分からないような専門用語は、極力使わないように意図されているのかもしれません。非常に分かりやすい言葉で、取材に基づいた事実を基に文章が構成されています。そして、墜落までの32分間の恐怖・遺体の身元確認の難しさ・遺族の補償の問題などを、緊迫感と生々しさをもって読者に伝えてきます。

 取材に基づいた内容を基に書かれているので、著者の感情は含まれません。なので、淡々としている感はあります。しかし、このような事故の場合、誰かの側に立った立場で書くと事実が歪められる可能性があります。全ての人の証言を平等に取り扱うと、このように淡々とならざるを得ないのでしょう。

 

 この日航機墜落事故の真実は、この本に書かれています。明らかにすることができない謎として残されている部分は多くありますし、今後もそれを解明することは出来ないでしょう。

 ただ、この事故の原因や事故が引き起こした様々な事象について、適切に検討し、今後に活かしていく必要があります。そのためには、多くの人が、この日航機墜落事故のことを忘れずに覚えておく必要があります。そのためにも、この本は、非常に優れたノンフィクションです。

 特に、生存者である落合由美さんの証言は、当時の機内の様子を我々に伝えてくれます。思い出し、証言するのは、とても辛い作業です。しかし、そのことが、事故の姿を世間に知らせることになり、このような事故が起きないようには、どのようにしていくべきなのかということを、我々に考えさせるきっかけとなります。

 

 墜落事故から、すでに30年以上が経っています。しかし、遺族の方にとっては、今なお過去の出来事ではありませんし、我々も過去の出来事として片づけてしまっていいものではありません。

 

 最後に、この事故でお亡くなりになられた犠牲者の方のご冥福をお祈りします。

 

墜落の夏―日航123便事故全記録 (新潮文庫)

墜落の夏―日航123便事故全記録 (新潮文庫)

 

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