毎日が読書日和ー思ったままの感想文

40歳で気付いた読書の魅力。小説から映画まで、感想を綴ります。

「星を継ぐもの」 ジェイムス・P・ホーガン

「星を継ぐもの」のあらすじ  

月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。 

 

「星を継ぐもの」の感想  

 30年以上前に発表された作品ですが、現在に至っても全く色褪せることのないハードSFの傑作です。謎の解明が物語の主眼なので、ミステリー・ハードSFと言った方が適切かもしれません。

 その謎が、とてつもなく壮大です。

  ほとんど現代人と同じ生物であるにもかかわらず、五万年以上も前に死んでいたのだ。

 

 この謎が、一気に読者をこの物語に引き込みます。作中の登場人物と同じように、信じられないとともに、その謎の真実を知りたいと思わせます。

 時代設定は、近未来の地球です。月には、多くの基地が建設されており、木星の衛星まで有人飛行し、そこにも基地が建設されています。すでに、人類が太陽系外宇宙への進出をも計画できるくらいの進歩した科学力を有しています。

 発表当時としては、かなり進歩した科学力を持っている地球を想定しているのでしょう。その科学力をもってしても、容易に解明できない大きな謎を読者にぶつけてきます。

 解明すべき謎は月から始まっていますが、物語の舞台はほぼ地球です。終盤に木星の衛星ガニメデに舞台を移しますが、謎を解明するべく集められた科学者たちは、地球上においてその謎に挑むのです。

 ですので、宇宙をテーマにしたSFでありながら、派手なアクションもありません。少しずつ解明されていく証拠に基づいて、科学者たちが自説に基づき議論をする。そのようにして立てた仮説が、新たな証拠により崩れ、また新しい仮説が生まれる。それが、繰り返されていくに過ぎません。

 ただ、その過程が非常に興味深い。決して荒唐無稽な仮説ではなく、科学的かつ論理的な根拠に基づき提示される仮説は、読んでいて納得させられます。

 

 月から運ばれてきた宇宙飛行士の遺体(チャーリーと命名されます)と彼の所持品を分析し、その分析結果を基に仮説を立て、謎を解明しようとします。

 遺体の生物学的見地からの分析、所持品の手帳の解読、人類を上回る科学力の装備の解明など。集められた科学者は、物理学者であるハントを筆頭に、生物学者、数学者、言語学者など、この問題に少しでも関わる分野がある学者が動員されます。

 科学者たちが解明を続けている間にも、月で彼らの居住施設と思われるものから新たな多くの遺体が発見(複数の遺体が発見されたことにより「ルナリアン」と命名されます)されたり、彼らの食料と思われるものなど多くの遺物が順次発掘されていきます。その都度、仮説が覆され新たな謎が生まれて科学者たちを戸惑わせるのです。この謎の行きつく先が、全く見えてきません。

 加えて、科学者たちの考え方の違いも露呈していきます。このことが、この小説を単なる議論の繰り返しだけでなく、人間関係を交えた興味深いものへと昇華させているのでしょう。

 特に、主人公であるハントと、生物学者であるダンチェッカーとの考え方の違いは議論の中枢を担います。

 ハントは、従来の科学に囚われず新たな発想でないとこの問題は解決しないと考え、ダンチェッカーは従来の科学で全てが説明できると考えています。この違いが、謎の解明を妨げ、更に混迷を深める要因の一つです。

 そこに、木星の衛星ガニメデで新たな宇宙船の残骸とその乗組員と思われる生物の遺体(ガニメアン)が発見されます。しかも、それは、2500万年前の代物です。

 この遺体は、年代が全く違います。チャーリーの問題も全く解決には程遠いのに、これほどの謎を新たに加えられると、本当に行きつく先が想像できません。

 これまで幾度となく繰り返されてきたチャーリーの議論に、新たにガニメアンが加わることで、また新たな議論が始まり、物語が単調化しないようになっています。しかし、ここまで話を複雑化して、どのように収集するのか。とても楽しみになってきます。

 このガニメアンの発見により、最終局面を迎え、舞台は木星の衛星ガニメデへ移ります。そして、ハントとダンチェッカーの関係も、新たな展開を迎えます。

 そして、物語は終局へと向かいます。ハントによる謎の解明。ダンチェッカーによる最後の仮説の演説。

 ダンチェッカーは、どちらかと言うと、従来の科学から抜け出せない古い考えの持ち主として描かれていますが、最後にダンチェッカーは驚くべき仮説を打ち立てます。

 ルナリアン、ガニメアンそして人類の起源にまで及ぶ仮説は、壮大で読んでいて鳥肌が立つような思いでした。

 堂々巡りが続く議論に、途中だれてしまいそうになりますが、この結末を見て今までの謎が解消し、納得してしまいます。これだけ緻密に計算されたSF小説はあまりないでしょう。ホーガンの代表作であり、SF小説の中でも輝く一冊です。

 

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)