毎日が読書日和ー思ったままの感想文

40歳で気付いた読書の魅力。小説から映画まで、感想を綴ります。

「ジョーカー・ゲーム」 柳 広司

ジョーカー・ゲーム」のあらすじ  

結城中佐の発案で陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「死ぬな、殺すな、とらわれるな」。この戒律を若き精鋭達に叩き込み、軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く結城は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を上げてゆく…。吉川英治文学新人賞日本推理作家協会賞に輝く究極のスパイ・ミステリー。 【「BOOK]データベースより】 

 

ジョーカー・ゲーム」の感想  

 私が、スパイといってまず思い浮かぶのが、007の「ジェームズ・ボンド」とミッション・インポッシブルの「イーサン・ハント」です。どちらもフィクションの話ですが、世界で最も有名なスパイの内の二人でしょう。

 アクション映画なのでエンターテイメント性が高く、現実感には乏しいですが、映画としては秀逸だと思っています。

  この「ジョーカー・ゲーム」は、映画のようにエンターテイメントを重視したものではありません。可能な限り現実のスパイを表現しようとした小説だと感じました。

 時代背景は、太平洋戦争開戦前。陸軍内に設置されたスパイ養成機関「D機関」と、そこで養成されたスパイの話です。

 太平洋戦争開戦前の非常に緊迫した世界情勢を背景に、そこで暗躍するスパイの活動についてリアリティを重視し、なおかつ小説として楽しめるストーリーで構成しています。現実の時代設定を背景にしていることで、フィクションでありながら、実在のスパイの話のように感じさせるのだと思います。

 「D機関」は、陸軍中野学校がモデルであることは容易に想像できます。小説内の「D機関」がどの程度、陸軍中野学校を模しているのか。私は、当時の歴史にあまり詳しくないので詳細なところはよく分かりません。ただ、そのことを知らなくても、この小説は十分に楽しめますし、本当のスパイというのは、この小説に書かれているような人たちだったのだろうと想像させてくれます。

 

 「ジョーカー・ゲーム」は、5編の読み切り短編で構成されています。1話読みきりなので、空いた時間に気軽に手に取って、読んでいくことができます。

 スパイ小説というと、騙し合いにより人間関係が複雑に絡まっていくような印象がありますが、この作品はそのようなことはありません。1話ごとの登場人物も少なく、非常に分かりやすいです。

 与えられた任務があり、その任務を完了させることがスパイの使命です。なので、読み手としては、無事に任務を完了するかどうかが問題となるわけですが、任務が完了するかどうかだけではなく、その過程がどのように展開するかということが一番の読みどころとなります。そして、読み手の予想を裏切る展開が、この小説には用意されているといっていいでしょう。

 

 物語は、優秀なスパイであった結城中佐がスパイ養成所「D機関」を設立するところから始まります。

 この結城中佐が、スパイの本質を生徒に教えます。

  「目立たぬこと」「スパイは怪しまれた時点で終わりだということ」

 

 それが、「D機関」における教えである「死ぬな・殺すな」に繋がります。

 人の死ほど、世間の注目を浴びることはないからです。一貫して、そのことを教えます。それが、当時の軍人には受け入れがたい思想であったことはよく分かります。「D機関」は、まず敵国でなく、陸軍と戦う必要があったわけです。

 スパイの本質を目立たぬことと定義した小説であるので、結城中佐以外の登場人物たちは、あまり個性がありません。スパイとして潜入するに当たっては、偽の身分を与えられます。しかし、あくまで偽なので、そのスパイ自身の個性ではありません。

 無個性の個性というべきものなのでしょうか。個性がないこと自体が個性なのでしょう。結城中佐については、確立された個性が存在しますが、それ以外の「D機関」の卒業生や生徒は、誰が誰なのか、区別があまりつきません。個性が必要でないということこそが、スパイという職のリアリティを更に強調しています。

 ただ、目立たぬことを信条として活動しているスパイ小説なので、ピリピリするような緊張感を伴う展開があまりありません。読んでいて、少し単調さを感じる部分が出てきてしまいます。現実のスパイに近づけて描こうとすればするほど、盛り上がりに欠けていってしまいます。そもそも、スパイというのは周りを盛り上げるような出来事を起こすわけにはいかないわけですから。情報収集の巧みさと深謀遠慮については感心させられます。

 続編も刊行されていますので、人気シリーズとして世間に受け入れられています。

 先般、映画化もされていますが、どのように制作されているのか気になります。原作に忠実にしすぎると地味な映画になってしまいそうな気がするからです。

 アニメもあるみたいですが、映画も含めて映像化されたものは、一度見てみたいと思います。

 

ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

ジョーカー・ゲーム (角川文庫)