毎日が読書日和ー思ったままの感想文

40歳で気付いた読書の魅力。小説から映画まで、感想を綴ります。

「スクラップ・アンド・ビルド」 羽田圭介

「スクラップ・アンド・ビルド」の内容

「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して…。閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!第153回芥川賞受賞作。 【「BOOK]データベースより】 

 

「スクラップ・アンド・ビルド」の感想  

 第153回芥川賞受賞作です。又吉直樹氏の「火花」と同時受賞により、ちょっと影が薄くなってしまった気がします。 

 「超高齢化社会「老人介護」という現代社会の喫緊の課題を扱った小説でありながら、あまり悲壮感漂う作品になっている訳ではありません。どちらかと言えば、コミカルな雰囲気もちらほらと漂わせています。 

 

  この小説が、そこまで悲壮感を漂わせていないのは、健斗の祖父が年齢の割に自立しているからでしょう。不定愁訴を訴えつつも、致命的な病気はない。なので、「死にたい」という言葉も本気なのか口癖なのかがはっきりとしません。

 ただ、健斗は、その言葉を素直に受け止め、出来うる限りの努力をもって叶えてあげようとします。本気で祖父のためだと信じて、懸命に「死にたい」願望を叶えてあげようと努力します。その努力は読んでいて、滑稽なほどに感じるほどです。 

 

 未来のある健斗にとっては、未来がなく衰えるしかない祖父が「死にたい」というのなら、苦しまずに死なせてあげるべきであり、残された家族も介護で疲弊せずに済むと考えます。ある意味、独りよがりな考え方だと言えます。

 そして、積極的に死なせる、すなわち殺す訳にはいかないので、ある方法で祖父を弱らせていこうとします。

 その方法は、読んでみていただきたいのですが、介護の仕方の本質を考えさせられます。弱っていくしかない老人の介護にとって、ベストな方法はどのようなものなのか。老人の不便さを全て取り除き、楽に生活させてあげることなのか。それとも、少しでも自立させるために厳しくするべきなのか。ただし、自立を促しても、若い頃に戻るわけではない。

 

 この小説では、健斗とその母がその対極の対応をしています。どちらが、本当に祖父のことを考えているのか。祖父のことを考えていなくても、結果として、どちらが祖父のためになるのか。いろいろ考えさせられます。

 ただ、健斗の行為は、あくまでも祖父の「死にたい」が、本当の願いであるかどうかが前提です。その前提が、物語の後半に揺らいできます。

 風呂で溺れそうになり「死ぬところだった」と言ったり、寝たきりにならないように自主的に廊下を歩いたり、若い女性ヘルパーの身体を触っていたりと。本当は死にたくないんじゃないかと疑念が浮かんできます。

 

 それでは、健斗や母の前で見せている「死にたい」は一体何なのだろうか。

 それは、自分の存在を確かめるためではないか。「死にたい」ということで、今は生きているということを主張し、家族の中での居場所を確保する。そのような気持ちがあったのかもしれない。勝手な想像かもしれませんが。

 この小説において成長していくのは、健斗だけです。祖父はもはや成長するはずもなく、母もそれほど登場しません。

 健斗が、衰えいく祖父との交流を通じて、精一杯の生を全うしようと頑張る姿を描いています。時には滑稽で、的外れなところもあります。そういうところが、この小説をコミカルなものにしているのでしょう。

 

 「超高齢化社会」「老人介護」について考えさせられる小説ですが、健斗という若者の成長を第一に描いているのかなとも感じました。 

  芥川賞受賞作で、これほど面白く軽快に読める作品はあまりない。

 

 ちなみに、選考委員の選評のいくつかを紹介すると、 

高樹のぶ子 氏

「死にたい、と口癖のように言う祖父のために、孫息子は死を叶えてやろうとするが、本当は生にしがみついているのを知る。祖父のずるさがユーモラスでかなしく、ここにある生と死の息苦しさは、日本中に蔓延している社会問題でもある。」 

島田雅彦 氏

 「羽田圭介得意の論理を畳み掛けてくる語り口は健在だが、実は語り手は天然ぼけでもあるところが笑える。」「前作はSMで、今度は介護かよ、と突っ込みたくもなったが、羽田はあらゆるテーマに対応可能な何でも屋フィガロになったと祝福するしかない。」 

宮本 輝 氏

 「まだこれから長い生が待ち受けている青年と、老いて、家族に負担をかけながら残り少ない年月を生きるしかない老人の、微妙な愛憎をユーモアを交えて描いてみせた。」「このユーモアは作者が企んだものではないと感じさせるのも羽田さんの技量であろうと思い、私は受賞に賛成した。」 

 小川洋子 氏

「評価は、幼稚な健斗をどれだけ受け入れられるかにかかっていた。その上で、とぼけたユーモアのある小説にも、あるいは祖父と孫の間に不気味な闇が立ち上ってくる小説にもなる可能性があった。しかし結局、そのどちらにもなりきれなかったのでは、との思いが残った。」 

 

 

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