毎日が読書日和ー思ったままの感想文

40歳で気付いた読書の魅力。小説から映画まで、感想を綴ります。

「重力ピエロ」 伊坂幸太郎

「重力ピエロ」の内容

 兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは―。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。 【「BOOK」データベースより】 

 

「重力ピエロ」の感想 

  読み終えた時に、涙が出そうになりました。伊坂幸太郎氏の作品は面白いという印象がありましたが、この作品を読んで、面白いだけでなく、こんなにも感動的な作品もあるんだと思い知らされました。

 

  この作品は、とても痛々しい内容です。この家族にとって、そして春にとって、生まれてきたことと生きていくことの全てが苦悩に満ちているはずです。その原因となる出来事は、物語の根幹なので書きません。しかし、この物語は書きようによっては、とても深刻で暗い小説になったでしょう。

 しかし、テンポの良い展開、軽快で洒落ているセリフと会話。伊坂氏らしい文章で構成されたこの作品は、痛々しいけど面白い。面白いけど痛々しい。最後まで一気に読み切らせます。

 

 「重力ピエロ」は、ミステリー作品ですが、先ほども言ったように、家族の苦悩と家族愛が重要なテーマとして描かれています。ミステリーをベースに、ここに登場する家族の想いが語られてるのです。

 ミステリー作品として読めば、伊坂氏らしい作品です。さまざまなところに伏線を張り、ヒントを与え、そして最後には、その伏線を一か所に集約し、読者を驚かせる結末を用意しています。そして、今回は、その結末が感動を与え、救いを与える結末になっているわけです。

 結構早い段階で、犯人は分かってしまいます。しかし、それは、作者が、わざと犯人が分かるように書いたようにも感じます。最後まで犯人捜しを引っ張るのではなく、犯人をある程度特定した状態だからこそ、逆に展開が読めなかった気がします。

 

 重力ピエロの魅力は、ミステリーとしての伏線や収束だけではなく、その登場人物の個性、そして彼らが交わす会話の絶妙なやり取り。これが素晴らしい。このふたつが、伊坂氏の作品を伊坂氏らしい作品として成り立たせています。

 特に、この作品のセリフには、人生の真理が多く含まれています。何気ない会話のやり取りの中に、人生の真実が語られているのです。書き留めると、きりがありません。

 ただ、この作品が重いテーマを孕んでいるのも関わらず、これだけ軽快に描かれていて、しかも、それでもこのテーマが軽くならないのは、文中にあるこのセリフのせいです。 

 

本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ

重いものを背負いながら、タップを踏むように  

 

 まさしく、そのように描かれています。陽気で軽快に描かれれば描かれるほど、深刻なことなんだと伝わってきます。

 

 そして、もうひとつの伊坂氏の作品の魅力である登場人物です。

 個性豊かで、それでいてキャラが被る登場人物は一切いません。そして、どんな端役でも、きっちりと個性を際立たせているので印象に残ります。

 物語の最初の方に、泉水が同僚の高木と居酒屋で飲むシーンがあります。そこで高木がナンパした女の子を連れてくるのです。たった7ページほどのシーンなんですが、この女の子の強烈な印象は、読み終えても頭にしっかりと残っています。

 

 登場人物は多くはありませんが、少ないというわけでもありません。しかし、あまりに個性豊かな登場人物ばかりなので、登場人物で混乱することはありません。

「これ、誰だったかな?」

というようなことは決して起こりません。どうしたら、こんなにたくさんの魅力的な人物を思いつくのだろうと感心します。しかも、現実離れしているわけでなく、結構身近にいそうな感覚なので、親しみが沸いてくるのです。

 そして、伊坂氏の作品は、しばしばクロスオーバー作品として説明されることがあります。この作品でも、別の作品に登場した人物が、登場してきます。

 そして彼らは、物語の中でとても重要な役割を与えられています。

 まずは、「ラッシュ・ライフ」で登場した「黒澤」です。彼は、この作品でも、とても魅力あふれる人物で、できる男として登場しています。

 そして、「オーデュボンの祈り」に登場した「伊藤」です。

 伊坂氏の作品は、クロスオーバー作品と言っても、緩やかなクロスオーバーです。以前に登場していた小説を知らなくても、本筋にそれほど影響はしません。知っていれば、ちょっと得した気分になれるといった感じです。

 

  「重力ピエロ」は、とても奥が深い作品です。ミステリーという表層ですが、その中には、底知れぬ様々な感情「愛」「憎しみ」「哀れみ」「苦しみ」などが内包されています。その人間の感情を、軽快に軽やかに陽気に伝えています。

 本当は、もっと内容に言及して感想を書きたい。でも、「重力ピエロ」の面白さを、完全に伝えきる自信が全くありません。なるべく、ネタバレしないように感想を書きましたが、逆に何を書いているのか自分でもよく分からなくなってしまいました。感想を書いていながら言うのもなんですが、この作品の素晴らしさは、読んでみないと分からない。 

 

重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)

  

 

 ちなみに、2009年に映画化もされていたようです。観てみようかなとも思ったのですが、泉水と春の母親役が「鈴木京香」だったので、やめました。あまりにイメージと違いすぎたので、小説のイメージが壊れてしまうように感じてしまいました。 

 

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