毎日が読書日和ー思ったままの感想文

40歳で気付いた読書の魅力。小説から映画まで、感想を綴ります。

「空の中」 有川 浩

「空の中」の内容

 200X年、謎の航空機事故が相次ぎ、メーカーの担当者と生き残った自衛隊パイロットは調査のために高空へ飛んだ。高度2万、事故に共通するその空域で彼らが見つけた秘密とは?一方地上では、子供たちが海辺で不思議な生物を拾う。大人と子供が見つけた2つの秘密が出会うとき、日本に、人類に降りかかる前代未聞の奇妙な危機とは―すべての本読みが胸躍らせる、未曾有のスペクタクルエンタテインメント。 【「BOOK」データベースより】

 

「空の中」の感想  

 「塩の街」「海の底」と並び、自衛隊三部作航空自衛隊編「空の中」です。私は、三部作の中では、この「空の中」が一番読み応えがありました。

 ページ数からも分かる通り、一番ボリュームがあったということもあります。

 

  「塩の街」よりは多少ましですが、非現実的で有り得ない設定です。どちらかと言えば、SF的な雰囲気が漂います。ただ、その非現実的な世界を、ロジックで説明しようとする努力は感じます。

 「空の中」は、高度2万メートルに浮かぶ、ある物体との邂逅によって引き起こされる物語です。しかし、単なるSFではなく、そこには有川浩氏の作品に欠かすことのできない恋愛物語が根底にあります。

 

 ここからは、一部ネタバレがありますので、ご了承ください。

 知的生命体と人類の邂逅は、二度の航空機衝突という悲惨な事故から始まります。この事故が、物語が始まるきっかけであり、また後に物語を大きく動かすことにもなるのです。

 高位の知的生命体の出自は物語の根底に関わることなので、詳しく書きません。この知的生命体は、物語中では【白鯨】と呼称されますので、ここからは【白鯨】と書きます。

 圧倒的な知的レベルを持った【白鯨】と、どのように人類は関わっていくのか。それが、この物語のひとつの軸です。そして、それをふたつの異なる物語で語っていきます。舞台は、航空自衛隊岐阜基地。そして、高知のとある田舎町。

 

 政府は、当初、【白鯨】と友好的な関係を構築しようとします。しかし、その裏には、圧倒的な知性の前に対抗する手段がないという側面もあります。政府は、航空自衛隊岐阜基地に対策本部を設置し、初めて【白鯨】と接触した女性パイロット武田光稀三尉と技術者の春名高巳を窓口にして【白鯨】との関係を構築しようとします。この二人が、この小説の一方の主人公です。

 この武田三尉は、とても個性的で魅力ある女性として描かれています。魅力あるというと語弊があるかもしれませんが、パイロットという男社会の中を生きていくために身に付けたであろう高圧的で頑固な性格です。特に、男性に対しては頑なです。美人ということですが。

 そして高巳は、軽い男のように描かれていますが、実は芯の通った男です。最初は、一方的に高巳が武田三尉に好意を抱くのですが、そこからは有川浩氏らしい恋愛要素をふんだんに取り入れ、微妙な恋愛模様を描いています。

 この二人は、【白鯨】との窓口として、友好的な関係の構築に奔走しますが、ある時、政府の裏切りにより、【白鯨】と敵対してしまいます。まさに、後ろから鉄砲を撃たれたというか梯子を外されたというか。結局は、政府の思惑どおりにいかず、その後始末を対策本部が丸投げされることになります。新たな友好関係の構築のための交渉には、様々な障害が伴います。国としての危機管理が失敗した時のつけがどのようになるのか。現実的な問題提起を含んでいるのかもしれません。その状況変化に対応しようとする対策本部の激務の様子が伝わってきます。

 そして、その激務の狭間に、二人の恋愛をちりばめています。三尉は20代前半、高巳は20代後半。若い二人に頼らざるを得ない状況に、二人の負担はかなり大きいのでしょう。その負担を分かち合えるのが二人だけ。頑なな三尉の心が揺れ動くのも分かります。

 

 そして、もうひとつの物語が、高知の田舎町で始まっています。

 主人公は、【白鯨】との航空機衝突事故で父親を亡くした高校生の斉木瞬と、その幼馴染の天野佳江です。父親を亡くした後、瞬は浜辺で未知の生物を拾います。フェイクと名付けられたその生物は、読者には【白鯨】と何らかの関係があると分かります。しかし、瞬にとっては、【白鯨】との関係性は分かりません。ただ、父親を失った心の穴埋めのためにフェイクと生活をします。

 そのフェイクに対する瞬の異様な愛着に危機感を抱いた佳江は、だんだんと瞬との距離が開いていくことを感じ、心を痛めます。この二人の物語は、恋愛というよりも、恋心に気付くまでの心の動きを描いています。離れることによって、本当の気持ちに気付く。高校生としては、少し幼い感じもしますが、幼馴染という関係が恋心を抱いているかどうかの判別を狂わせていたのでしょう。

 瞬は、ある事件をきっかけに、その異常な愛着を憎悪に転換してしまいます。そして、その憎悪が誤りであったことに気付きます。しかし、どうすればその過ちをなくすことが出来るのか。その方法が分からず、佳江から更に離れていってしまうのです。

 

 そこに、この物語の鍵となる人物が登場します。航空機衝突事故のもう一人の遺族である少女です。この少女の登場で、武田三尉と高巳、瞬と佳江。そして、ふたつの物語が交わります。

 少女は、【白鯨】に燃えさかる憎悪を抱いています。そして、瞬を【白鯨】の元へと連れて行くのです。自分の目的を達成するために。

 ここからは、今まで別に進んでいた物語が、一気に一ヶ所に収束していきます。三尉と高巳。瞬と佳江。そして少女。それぞれの思惑を持って、直接対決に挑みます。

 三尉と高巳は、【白鯨】と共存すること。

 瞬は、過ちをなかったことにすること。

 少女は、私憤を晴らすこと。

 それぞれの思惑の中で、テーブルを挟み闘います。

 結末は、ある程度、予想範囲内で予定調和ってところでしょうか。しかし、これ以外の落とし所もないと思います。結果としては、ハッピーエンドの部類かな。

 エピローグ的に、三尉と高巳、瞬と佳江の話があります。恋愛小説としての結末もきっちりと入れてきます。特に、三尉と高巳の結末はとても心温まるものでした。

 何だかんだ言っても、やっぱり恋愛小説なんですよね。いい意味でも悪い意味でも、有川浩氏らしい小説でした。ラノベの延長線上に位置する小説です。

 

空の中 (角川文庫)

空の中 (角川文庫)

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