晴耕雨読で生きる

本を読み、感想や書評を綴るブログです。主に小説。

ーおすすめ記事ー
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト

『ソードアート・オンライン3 フェアリィ・ダンス』:川原 礫|仮想世界から生還しないアスナを探しに・・・。

 ソードーアート・オンラインの第3巻です。副題は「フェアリィ・ダンス」。第2巻はアインクラッドにおける短編集でしたので、第1巻の続編です。第1巻は病院で目覚めたキリトがアスナを探すため、痩せ細った体を引き摺り歩き出すところで終了しました。続編を意識した終わり方です。そこで発刊された第2巻が、意表を突く短編集。そして、ようやく本編の続編が始まりました。第1巻の終わり方から想像すると、アスナを探すことに主眼が置かれるだろうことは容易に想像できます。ただ、現実世界で探すだけでは、この小説の意味がない。仮想世界が最も重要な要素の小説だからです。

 クリアされたアインクラッド。どのように現実世界と新たな仮想世界を組み合わせていくのか。興味深いところです。 

「ソードアート・オンライン3」の内容 

禁断のデスバトルMMO『ソードアート・オンライン』から現実世界に戻ってきたキリト。彼は攻略パートナーであり、想い人でもあるアスナのもとに向かう。しかし、結城明日奈は、あの悪夢のゲームからまだ帰還していなかった。困惑と絶望に包まれるキリト。唯一の手がかりは、鳥篭の中で佇む“妖精姿”のアスナという謎の画像データのみ。どうやら彼女は、高スペックVRMMO“アルヴヘイム・オンライン”というゲーム内に囚われているらしい。キリトはアスナを救うため、飛翔する妖精プレイヤーたちが交錯する“ALO”に飛び込んでいく…!!【引用:「BOOK」データベース】 

「ソードアート・オンライン3」の感想 

SAOからALOへ

 アインクラッド編に比べれば、どうしてもトーンダウンした感が否めない。何故なら、最も読者を惹きつける重要な要素がなくなったしまったからです。

  • ログアウトできない
  • ゲーム内の死が現実の死

 このふたつがソードアート・オンラインの最も魅力的な部分だからです。本作の重要な要素が抜け落ちたことで違う目的が必要になります。それが、未だログアウト出来ていないプライヤーです。アスナと300名のSAOプレイヤー。キリトにとって重要なのは、アスナが未だ目覚めないこと。そのことから、フェアリィ・ダンスのテーマは、アスナを目覚めさせることです。そして、彼女たちが閉じ込められていると思われるVRMMORPG「アルヴヘイム・オンライン」に身を投じていく訳です。 

出劇

 ストーリーは、キリトがアスナを仮想世界から救出するために闘うことを軸にしています。アスナを閉じ込めている須郷伸之(ゲーム内では、妖精王オベイロン)は、完全な悪として描かれています。アインクラッド編では、茅場晶彦がラスボスとして存在していました。ただ、彼の真の思惑やヒースクリフとしての行動は、一概に悪と断定するには難しい存在だったように感じます。特にアインクラッドが崩壊する時のキリトとアスナに対する会話には、悪意を感じさせるものがありません。
 それに対し、須郷伸之は疑うところのない悪です。悪として描かれているので、それに対するキリトは、当然、正義としての存在になります。 

正義と悪。その両極の対決と言う非常に分かりやすい構図です。 

 アスナ救出と同じくらい重要な要素として、キリトの妹・直葉との関係が大きく描かれています。彼女が抱くキリトへの愛情。それが異性としての愛情でありながら兄弟愛と自分を納得させざるを得ない心の動きを散りばめ、単調にならないよう工夫されています。フェアリィ・ダンスの主役はもちろんキリトですが、それと同等以上に直葉が中心にいます。 

 この二つのストーリーを軸にフェアリィ・ダンスは描かれています。アインクラッド編の続編で仮想世界を舞台にしていますが、現実世界が加わることで全く違う小説の印象です。 

場人物 

 前作から引き続き登場している主要な登場人物は、キリトとアスナとユイだけです。エギルはアスナの所在を掴む重要なヒントを与えるために登場しますが、それも現実世界の話です。 

  • キリト・・・種族はスプリガンで、ALOでは背丈は小さく髪がツンツンと逆立った少年のようなアバター。
  • アスナ・・・ALOでは妖精王オベイロンの妃・ティターニア。容姿は現実の「明日奈」をベースにしている。世界樹の頂点付近の枝につるされた鳥かごに幽閉されている。 
  • リーファ・・・ALOの風妖精族シルフの女性剣士。フェアリィ・ダンス編のヒロイン。和人の1歳下の義妹(血縁上は従妹)で、彼からは「スグ」と呼ばれている。 
  • ユイ・・・元はSAO内でのメンタルヘルス・カウンセリングプログラムでSAO内でキリトがオブジェクト化して持っていたもの。ALO内に入った時、アイテム内で唯一残っていた「MHCP001」からユイを復元した。「ナビゲーション・ピクシー」としてキリト達をサポートする。
  • 須郷伸之・・・総合電子機器メーカー「レクト」のフルダイブ技術研究部門の主任研究員。「アーガス」解散後のSAOサーバーの維持管理は彼の部署に委託されており、さらにALO内ではゲームマスター・妖精王オベイロンとしてシステムに対し絶大な権限を持つ。
  • レコン・・・ALOプレイヤーで、種族はシルフ族。「直葉の同級生」 
  • サクヤ・・・シルフの領主
  • アリシャ・ルー・・・ケットシーの領主
  • ユージーン・・・サラマンダー領主・モーティマーの弟

最後に 

 最初に書きましたが、アインクラッドでの前提条件がなくなっているので第1巻ほどの緊張感はありません。ストーリーは続編だけど、別物と考えた方がいいかも。共通しているのは、仮想世界が主な舞台だということです。現実世界と仮想世界を行き交い物語が進んでいくのは、新鮮味があります。そのふたつの世界で、自分の存在意義をどのように納得していくのか。その部分は、読み応えがあります。 

 ただ、都合のよい部分が目立つ感もあります。

  • アスナの所在を、エギルが発見すること。
  • 最初のログイン時に、リーファと出会うこと。
  • いきなり、チート級の強さを持った状態でキャラ作成されていること。

 これらの現象は、一応理由付けされていますが、やはり都合が良すぎる気がします。第3巻は、キリトにとって都合のよいストーリー展開と彼の強さばかりが目立ってしまった印象です。良い部分と悪い部分。そのふたつがはっきりしています。キリトの反則的な強さが第4巻まで続くのか。そうだとすると、アスナ救出はそれほど難しいことでない。それでは、リーファとの関係が主軸になるのか。そのあたりについては、先が読めません。 

「フェアリィ・ダンス」結末へ