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『イン・ザ・プール』:奥田英朗|ハチャメチャ伊良部に振り回される?

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 とにかく面白かった。通勤中の電車の中で読んでいたのですが、顔が笑っていたかもしれません。変な人に思われたかも・・・。 5つの短編からなる物語で、一話完結で読みやすい。悩みを抱えた5人の患者と、とんでもなく変な精神科医のドタバタ劇に引き込まれます。

「イン・ザ・プール」の内容

「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、妄想癖…訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。 【引用:「BOOK」データベース】  

「イン・ザ・プール」の感想

場キャラが濃い

 もともとは「チーム・バチスタの栄光」を読んだ時に、「登場人物の厚労省・白鳥圭輔は「イン・ザ・プール」の伊良部一郎にそっくりだ」という感想をネットでよく見かけたので、じゃあ読んでみよう思い立ちました。確かにそっくりです。発表されたのは「イン・ザ・プール」の方が先なので、海堂尊氏はこの作品に影響を受けたとしか思えないほどです。伊良部の「とんでもなさ」は、医者というより人間として「とんでもない」です。見た目もそうだし、話す内容・行動・治療の仕方。とにかく全てが規格外です。 

療小説?

 小説のジャンルは、医療小説ではなくコメディと言えなくもない。ミステリーをベースにした医療小説のチーム・バチスタとは土台が違うので、登場人物設定が似ているからと言って比較する必要もないでしょう。 

 各話はもちろん患者の視点から描かれています。伊良部一郎を患者の視点から見て、描いています。治したい一心の患者から見れば、あまりに不誠実で勝手な医者です。治そうとしているのかどうかわからない医者との噛み合わないやりとりが、読んでいて楽しい。患者が必死であればあるほど、伊良部一郎の変てこなキャラも際立ってきます。 

そんな伊良部でありながら、読んでいて何故か憎めない 

 無茶苦茶な医者でありながら、何となく愛すべきキャラクターに感じるから不思議です。多分、悪意がないからでしょう。まるで子供です。 また、受診に訪れる患者の症状も多種多様で面白い。 

代人には共感できるかも

 共感できる患者も何人かいました。ここに現れる症状(陰茎強直症以外)は、誰でも罹患する可能性があるものです。だから、物語があまり非現実的にならずに読み込めるのです。伊良部の存在が非現実的だから、病状の現実感が増すのかもしれません。

 登場人物はとても少ない。どの話も主要な登場人物は、患者と伊良部と看護師のマユミの3人です。もちろん、患者の周りにいる家族や会社の同僚や友人は出てきますが、ほぼ脇役です。登場人物が少ないおかげで話がややこしくならず、スイスイ読めます。伊良部のキャラも濃いですが、看護師のマユミも濃い。ほとんどセリフはありませんが、強烈な存在感です。

終わりに 

 とんでもない精神科医ですが、最後はうまく収まります。伊良部が名医だからなのかどうかは、是非読んでみてください。おそらく、伊良部は想像していた以上の衝撃を与えてくれます。深く考えずに、笑える小説です。ただ、人前で読むのは控えた方がいいでしょう。最初に書きましたが、私は電車のなかでニヤニヤしていました。 

イン・ザ・プール (文春文庫)

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