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『ジェネラル・ルージュの凱旋』:海堂 尊|速水晃一の生き様が心に響く

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 実に爽快で分かりやすく引き込まれる作品です。主役の速水晃一がかっこよすぎるくらいかっこいい。ジェネラルの称号にも納得の存在感と威厳です。もともと「ジェネラル・ルージュの凱旋」と前作の「ナイチンゲールの沈黙」は一つの物語として執筆されていたそうです。ただ原稿が1,000枚を超えたため、上下巻での発刊が余儀なくされてきます。発刊元が上下巻での販売に難色(簡単に言えば反対)したため、2つの作品に分離したという背景があります。 

「ジェネラル・ルージュの凱旋」の内容

桜宮市にある東城大学医学部付属病院に、伝説の歌姫が大量吐血で緊急入院した頃、不定愁訴外来の万年講師・田口公平の元には、一枚の怪文書が届いていた。それは救命救急センター部長の速水晃一が特定業者と癒着しているという、匿名の内部告発文書だった。病院長・高階から依頼を受けた田口は事実の調査に乗り出すが、倫理問題審査会(エシックス・コミティ)委員長・沼田による嫌味な介入や、ドジな新人看護師・姫宮と厚生労働省の“火喰い鳥”白鳥の登場で、さらに複雑な事態に突入していく。将軍(ジェネラル・ルージュ)の異名をとる速水の悲願、桜宮市へのドクター・ヘリ導入を目前にして速水は病院を追われてしまうのか…。そして、さらなる大惨事が桜宮市と病院を直撃する。 【引用:「BOOK」データベース】  

「ジェネラル・ルージュの凱旋」の感想

たつの同時進行 

 「ナイチンゲールの沈黙」と同じ時系列で物語は構成されています。本作は東城大学医学部付属病院オレンジ新棟の1階(救命救急センター)、「ナイチンゲールの・・・」は2階(小児科)がそれぞれの舞台です。一つの物語を二つに分離したので、両物語は登場人物や出来事など様々な場面で絡まりあっています。ですが、物語の主題は全く違います。前作の感想は以前に書きましたが、ファンタジー要素満載で私としてはあまり好みでありません。

  「ジェネラル・ルージュの凱旋」は医療が抱えているであろう現実的なテーマを、読み応えのあるエンターテイメントとして見事に描いています。著者の作品を読むたびに思うのですが、登場人物の個性がすばらしい。登場人物が個性豊かであれば、物語も奥深くなってくるのは当然です。今作は、読んでいてとにかく気持ちがいい。速水晃一の遠慮のない物言い、田口公平の読みの深さ、そして白鳥圭輔のロジカルぶり。何度も言いますが爽快です。 

収賄の裏に

 話の本筋は、速水晃一の収賄疑惑です。ただ、収賄疑惑を調べる過程での物語の広げ方も素晴らしい。先が気になって仕方ありません。敵役を配置し対決させたり、内部告発の収賄疑惑もひとひねりを加えています。結末には意外な展開を見せてきます。ミステリー要素もふんだんに盛り込まれています。最後には全ての謎が解決し、本当に気持ちいいくらい消化不良になる部分が見当たりません。

 今作では「収賄」「医療と経済原則」「倫理」「派閥」などが主題です。それを使って、医療制度の崩壊をテーマにしていますが、読者にこれらの問題を押し付けることはありません。小説の中に自然に潜り込ませて、読者に訴えかけてきます。その押し付けがないから、知らず知らずのうちに、医療について考えるようになってきます。 

たな登場人物

 今作では、白鳥圭輔の部下「氷姫」こと「姫宮」が初登場します。話の本筋に絡むほどではありませんでしたが、ストーリーにスパイスを利かせたような役割です。思わず顔が綻んでくるような面白さです。いかにも白鳥の部下だなというところです。今後の活躍に期待できる個性豊かな人物です。  

時間軸の宿命

 ひとつ残念なのは「ナイチンゲールの・・・」と同時間軸なので、前作で読んだ出来事がまた同じように書かれています。それほど物語に影響しないような出来事が、二回書かれている場面も見受けられました。そう思えば、前作を読んでいないと話の筋が分かりにくいような部分もあり、絡ませ方がちょっと下手なのでは?と思ってしまいます。

 物語は本当に面白いです。だから、こういった部分がちょっと残念でした。いっその事、全く別物にして書いてしまった方が良かったのにと感じてしまいます。「ナイチンゲールの沈黙」を読まなくても十分楽しめます。どちらも読むのであれば、出版順どおり「ナイチンゲールの沈黙」が先のほうが良いでしょう。

終わりに

 映像化は、映画・ドラマともに制作されています。速水晃一役は、映画では「堺雅人」、ドラマでは「西島秀俊」が演じています。個人的には、「西島秀俊」の方がイメージかなと思っています。  

 最後に一つ、小説の中で、速水晃一が現在の医療について語ったセリフで印象に残ったものが、 

俺たちの仕事は、警察官や消防士と同じだ。トラブルが起こらなければ、単なる無駄飯食い。だからといって国家は警察官や消防士に利益を上げることを要求するか?そんな彼等に税金という経済資源を配分することを、市民は拒否するのか? 

  結局のところ、医療制度を崩壊させるのは我々国民自身なのかもしれません。

新装版 ジェネラル・ルージュの凱旋 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

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