晴耕雨読で生きる

本を読み、感想や書評を綴るブログです。主に小説。

ーおすすめ記事ー
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト
タイトルのテキスト

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』:七月隆文|タイトルの意味が分かる時、物語が違って見える

f:id:dokusho-suki:20181007104405j:plain

 映画化された恋愛小説という知識だけで、詳しい内容は知らずに読み始めました。
 前半部分は、大学生の主人公「南山高寿」と、同い年の「福寿愛美」の甘くてベタベタな恋愛模様が描かれており、いかにも恋愛小説といった趣です。しかし、中盤に彼女の秘密が明らかになると一気に別の側面を見せます。最後まで読み終えると、涙を堪えるのが難しいほどの感動を覚えます。 

「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の内容 

京都の美大に通うぼくが一目惚れした女の子。高嶺の花に見えた彼女に意を決して声をかけ、交際にこぎつけた。気配り上手でさびしがりやな彼女には、ぼくが想像もできなかった大きな秘密が隠されていて―。【引用:「BOOK」データベース】 

「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の感想 

イトルの意味

 設定は、現実的でなくファンタジー的な要素を土台としています。その非現実的な設定を気にさせないほど、登場人物の心の機微が繊細に描かれています。中高生向けのラノベの雰囲気を漂わせていますが、年齢問わず心に訴えてくるものがあります。中盤、彼女の秘密が分かると、タイトル「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の意味が分かります。
 明日と昨日の意味。
 切なく悲しい物語が始まりを告げます。しかし、本当は秘密が明かされる前から始まっていたのです。 

場人物 

  • 南山高寿・・・京都の美大に通う大学生。愛美に一目ぼれする。
  • 福寿愛美・・・美容の専門学校に通っている。 

 登場人物は少ないです。少ない登場人物の上、高寿・愛美以外の登場人物はあまり物語に登場してきません。二人を中心に描いているというよりは、二人だけの物語として描いている印象を受けます。二人の心の微妙な動きまで表現することが出来るのは、二人の世界だけを描こうとしているためでしょう。 

女が秘密を明かす前  

 彼女に一目惚れした高寿が、彼女を追いかけ告白するところから始まります。いかにも、中高生向け恋愛小説の始まり方です。彼女がその告白を受けることも、出来すぎな恋愛小説の印象を際立たせます。そこからは、甘い恋人関係が続きます。デートしたり、手を繋いだり、キスをしたり。高寿が女の子とまともに付き合ったことがないので、その初々しさが伝わってきます。彼女も、彼に合わせるように初々しさを感じさせます。 

 現実に異性と付き合ったことにない人たちには、理想的な恋人関係に映るでしょうし、異性と付き合い始めた人たちは共感を覚えるような恋人関係でしょう。また、そのような時期を過ぎた恋人たちや結婚した人たちには、そういう時代があったことを思い出させるかもしれません。高寿にとって夢のような日々が描かれています。その幸せは、読んでいて恥ずかしくなるところもあります。 

出来過ぎな出会いと出来すぎな恋愛の進展。当初は、単なる青春恋愛小説にしか感じません。 

 しかし、幸せな恋愛関係の中で、彼女の発言・行動に違和感を感じる場面が登場してきます。そのことが、彼女に大きな秘密があることを示唆します。決して喜ばしい秘密ではなく、不穏な秘密であることは容易に想像できます。容易に想像できるからこそ、彼は深く追求しないのでしょう。読者にとっても、高寿にとっても、その秘密は避けて通れないものだと理解できます。彼女もそれを理解しているからこそ打ち明けることになるのです。
 言い方を変えれば、打ち明けることが決まっていたのです。決まっていたという表現が最も適切で、彼女の秘密に直結する表現でもあります。 

女が秘密を明かした後  

 彼女が、彼に明かした秘密。それは、この小説の最も重要な部分です。先ほども書きましたが、その秘密が明かされることにより単なる恋愛小説でなくなり、タイトル「ぼくは明日、昨日のきみのデートする」の意味も分かります。ある程度、想像できる人もいると思います。しかし、その秘密が明かされる瞬間は何とも言えない気持ちになります。
 彼女の秘密が明かされたことにより、これまでの彼女の言動・態度にも納得できます。彼が感じていた彼女に対する違和感の全てについて辻褄が合うようになります。 

 これからの二人が、どのような関係になっていくのか。

  • 秘密を抱えてきた彼女。
  • 秘密にされていた彼。 

 彼女に対する不信感をどうするのか。彼女が秘密にしていた理由を感じ取ることが出来るのか。物語が進むにつれ、恋愛以上にお互いを思いやる気持ちが溢れてきます。その思いやる気持ちが、切なくて悲しい。読んでいて心が震えてきます。 

最後に  

 彼女の秘密が、物語を切なく悲しくやるせない思いにさせます。彼と彼女にとって、共有できるものは非常に限られた瞬間のみです。その限られた瞬間のために、二人は一緒にいます。そのことが、幸せなことなのか辛いことなのか。

 避けられない運命のとおりの結末になります。切なくて悲しい結末であるのは間違いないですが、そこには幸せも含まれていたと感じます。決して救いのない出会いではないのです。 

映画化について

 映画は観ていません。公開は終わっていますが、機会があれば観てみようと思ってます。心の動きが重要な要素ですので、映像でどのように表現されているのか興味深いです。