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『謎解きはディナーのあとで』:東川篤哉|執事が解き明かす事件の謎

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 2011年の本屋大賞受賞作。1話完結の短篇集で、第6話まであります。殺人事件を捜査するミステリー物ですが、本格的なミステリーを期待して読むと肩透かしを食らいます。

 主要登場人物は「宝生麗子」と上司の「風祭警部」、麗子の執事兼運転手「影山」です。この3人の強烈な個性が、物語を彩ります。個性が強すぎる気もしますが。登場人物の個性を前面に出したコメディタッチのミステリー小説です。軽快なストーリー展開の小説と言えますが、内容が軽いと言える面もあります。どのように受け止めるかは、読み手次第です。短編集なのと文章が分かりやすいのとテンポが良いので、1日で一気に読み終えることが出来ます。 

「謎解きはディナーのあとで」の内容

国立署の新米刑事、宝生麗子は世界的に有名な『宝生グループ』のお嬢様。『風祭モータース』の御曹司である風祭警部の下で、数々の事件に奮闘中だ。大豪邸に帰ると、地味なパンツスーツからドレスに着替えてディナーを楽しむ麗子だが、難解な事件にぶちあたるたびに、その一部始終を相談する相手は“執事兼運転手”の影山。「お嬢様の目は節穴でございますか?」―暴言すれすれの毒舌で麗子の推理力のなさを指摘しつつも、影山は鮮やかに事件の謎を解き明かしていく。【引用:「BOOK」データベース】 

「謎解きはディナーのあとで」の感想

型の物語構成

 6話の短編ですが、物語の構成・進展の仕方はどの話もほぼ同じです。 

  1. 殺人事件が発生し、麗子と上司の風祭警部が現場で捜査。
  2. 麗子は、風祭警部の的外れな推理に辟易としながらも、自らも事件解決への糸口すら掴めない。
  3. 豪邸に帰り、執事兼運転手の”影山”に事件の概要を話す。
  4. 影山は、麗子を馬鹿にしたような暴言を吐きつつ、事件の謎を推理し解決する。 

 6話の短編の物語構成は、このような感じです。違うのは殺人事件の謎と物語中に登場するエピソードくらいに感じます。肉付けは違いますが、骨格は同じと言ったところです。ストーリー展開が同じなので、読んでいて安心感があります。毎回同じストーリーの時代劇を見ているような感覚です。

 その一方、意外性がないのでつまらなさを感じさせます。あくまで物語構成のことなので、殺人事件の謎がつまらないと言っている訳ではありません。ストーリー展開が読めてしまうということです。最初に書きましたが、登場人物の個性が強い。その個性を生かすためには、このような展開に落ち着かざるを得なかったのか。 

イトルが示す殺人事件

 「謎解きはディナーのあとで」

 この小説は、タイトルが洒落ています。各短編のタイトルも、その中で起こる殺人事件の内容を洒落た言い回しで表現しています。

  • 第一話 殺人現場では靴をお脱ぎください
  • 第二話 殺しのワインはいかがでしょう
  • 第三話 綺麗な薔薇には殺意がございます
  • 第四話 花嫁は密室の中でございます
  • 第五話 二股にはお気をつけください
  • 第六話 死者からの伝言をどうぞ

 それぞれのタイトルが、殺人事件の鍵となる事柄を表現しています。「靴・ワイン・薔薇・密室・二股・伝言」影山が謎解きをした時、このタイトルに納得します。事件の真相を簡単に悟らせることなく、読み終えるとタイトルの意味に気付かされる。タイトルの付け方は、うまいと感じます。 

 肝心の殺人事件の謎はどうか。麗子の話を聞いて(現場に居合わせたりもしますが)影山が謎解きをするので、深くて巧妙な謎ではありません。麗子からの話だけでは、影山にとっての情報量は少ない。その少ない情報量で謎解きをするからには、あまりに巧妙で複雑な謎ではちょっと難しい。複雑過ぎないから影山の謎解きも簡潔で、読んでいてすっきりとします。影山は謎解きをするだけで、事件の真実かどうかは別問題です。もちろん、事件の真相のはずですが。殺人事件の謎解きも気になりますが、そこに関わる3人「麗子・風祭・影山」のコメディが小説の主軸に感じます。こんなことを言うと、ミステリーが分かっていないとお叱りを受けるかもしれませんが。  

最後に

 殺人事件の謎はある程度練られている感はありますが、登場人物のコミカルさが殺人事件の深刻さと犯人逮捕に挑む強い思いを伝えてきません。そのあたりが、この小説に軽い印象を与える原因かもしれません。また各短編ごとに、登場人物の人物設定の説明があります。同じ内容の人物設定を毎回読まされるのは、はっきり言ってくどい。第1話で人物設定が終わっているのだから、必要ないのでは。 

 短篇で読みやすいので、気楽に読んで楽しめる。そんな小説です。読後に、心に何かが残ると言ったものではありません。  

映像化

 過去に、櫻井翔、北川景子、椎名桔平で映像化されています。登場人物のイメージとしては、小説とかけ離れている気はしません。ただ、椎名桔平の年齢が高すぎるのが、原作と違います。