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『直感力』:羽生善治|直感とは、いかなるものなのか。

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 平成30年2月13日(火)に、囲碁の井山裕太氏とともに「国民栄誉賞」を受賞された羽生善治氏の著書です。羽生氏の著書は初めて読みました。将棋界は、藤井聡太(六段)の影響で非常に注目を集めています。将棋はマイナーなイメージがあるので、注目を浴びるのは喜ばしいことです 

 思い返せば、将棋が世間から注目を浴びたのは、羽生善治氏が七冠を達成した時でしょう。将棋界のみならず世間が沸いた記憶があります。その前人未到の偉業を達成した羽生氏の考え方を知ることができるのではと言う期待から、この本を手に取りました。将棋を指す上での「直感力」とは、どのようなものなのか。その「直感力」を磨くことは人生にとっても重要なことなのか。直感という曖昧で実態のないものを、どのように読者に伝えてくるのか興味深いところです。 

「直感力」の内容

自分を信じる力。無理をしない、囚われない、自己否定しない。経験を積むほど、直感力は磨かれていく。生涯獲得タイトル数、歴代1位の偉業達成。 

第一章 直感は磨くことが出来る

 直感とはいかなるものか。羽生氏が考える直感について、まずは提示しています。直感と聞いて想像するものは、いきなり頭の中に答えが浮かび上がってくることです。何もないところから、まるで神の啓示のように頭の中に降ってくるイメージです。しかし、そんなことは有り得るはずもありません。何の下地もなく思いつくのは、単なる山勘(あてずっぽう)に過ぎないということです。 

 羽生氏の直感とは、「論理的思考が瞬時に行われるようなもの」と言うことです。論理的思考が瞬時に行われ、一気に答えにジャンプする。何もないところから、答えが沸いて出る訳ではないということです。論理的思考を瞬時に行う。つまり一気に答えにジャンプするためには、相当の経験を積む必要があります。何度も考え模索する経験を積むことで、ようやくその過程を一気に飛ばすことが出来ます。 

  • 経験を積むこと。
  • 経験から模索し、直感を導き出す訓練を積むこと。

 このことは、程度の差はあれ、誰にでも出来ることではないだろうか。  

第二章 無理をしない

  無駄と思われることであっても、無駄なことはない。そう思っていても、我々は答えを求め、最短距離を行こうとしてしまいます。短期的に見れば、実際に無駄に終わってしまうかもしれない。しかし、将来的に役立つ時が来るかもしれない。経験を積み重ねるという意味では、必要なことだということでしょう。なかなか無駄だと思ってしまったことに手を付けるのは、勇気のいることだとは思いますが。その無駄から派生するのかもしれないが、空白の時間を作る必要も説いています。空白の時間、すなわち頭の中に空白の部分を作る。空白という余裕が頭の中にないと、想像的思考が生まれてこない。詰まった頭では、新しいことが生まれる余裕がないということでしょう。そして集中力を身に着けるためにも、空白が必要だということです。徐々に集中の中に身を沈めていくためには、ぼんやりと過ごす時間から始めていく必要があると。 

たしかに、あれこれ考えていると集中など出来る訳がありません。 

 そして、集中を持続する訓練についても述べています。たった5分集中できるだけでは、あまり意味がない。集中する時間を延ばしていく必要があります。そのためには、集中を延ばす訓練も必要です。集中力は人の性質の問題ではなく、自ら努力して身に付けるものだということがよく分かります。  

第三章 囚われない

 意欲を持たないと継続して経験を積み重ねていくことはできない。そして、意欲を持つためには囚われない心が必要だと説いています。好きなことに囚われるからこそ、それに対して集中し経験を重ねていくことができるのはないかと考えてしまいます。 しかし、羽生氏は好きなことだけをやっていても、ダメだと言っています。苦手なことを引き受けていくことも重要だと。自分の思い通りにならないことが、逆に面白いと考える必要もあるということでしょう。 

 自分の苦手なものに対し苦手だからと限界を定め、終わりにしてしまう。しかし、苦手だからと言って逃げてばかりいてはダメだと誰でも分かっているはずです。だからと言って、苦手なもの全てに手を出す訳にもいきません。そこで、諦めずに手を出すものと諦めるものの分別が必要なのかもしれません。 

 章の最後に、読書のことについて書いています。様々な本を読む。読むかどうか迷ったら、とにかく買ってみる。私にとってこの考え方には通じるものがあります。  

第四章 力を借りる

 将棋の対局では、対戦相手の集中力が自分自身にも影響を及ぼし自らの集中力を高めることがあるそうです。これは、プロ同士の対局でこそ感じることなのかもしれません。勝ち負けを決める闘いでありながら、お互いが美しい局面を生み出そうとしていく。とても不思議な感覚だと思います。しかし、そのことがお互いの直感力を磨くことに繋がるということです。このことは、将棋のプロでしか経験出来ないことのように感じます。素人は、どうしても勝ち負けしか考えないと思うからです。しかしプロ同士は、お互いの力を利用し合い美しい局面を描き出し、そのことをもって直感を高めていくのでしょう。 

私には、実感として感じることは出来ませんが。 

 お互いの力を利用するためには、同世代のライバルだけでなく若手の力も利用していく必要があるとのことです。

  • 同世代だからこそ、お互い頑張っていける。
  • 世代が違う若手だからこそ、自分にはない発想や柔軟性がある。

 そのようにして様々な力を借りて、自分を成長させていくます。これは、我々のような一般社会人にも当てはめることが出来ることだと感じます。  

第五章 直感と情報

 自分の型を確立することの重要性についてです。通常は、相手の出方に合わせた対応ばかりに頭がいってしまいます。そうなれば相手が変わるたびに、その対応に追われるだけになってしまいます。そして相手を研究したところで、これから先も研究通りに動いてくれるとは限りません。研究は、あくまで過去の出来事なのですから。そのことよりも自分を確立させること。相手が誰であろうと、自分の型が出来ていれば動じることなく対応することが出来ます。しかし自分の型を作るためには、自分自身を徹底的に研究する必要があります。そのこと自体も難しい気がします。 

 現在の将棋においては、過去のデータの分析が重要になっています。いかに過去のデータを元に自分自身の型を作るか。羽生氏は情報の蓄積よりも、その情報を元にいかにして新しいものを創造するかが重要だと述べています。情報は素材に過ぎないと。

 情報の蓄積と創造力。この二つのバランスを保つことが重要な事柄だということです。  

第六章 あきらめること、あきらめないこと

 あきらめずに頑張れ。聞き飽きるほど言われ続けた言葉だと感じます。確かにすぐに諦めることは、自分自身の成長を止めてしまいます。しかし、羽生氏は諦めることも必要なことだと述べています。問題は、どこで諦めるかの見極めだということです。これは、将棋の世界での話として書かれているように感じました。勝敗の分岐点を判断することで諦めるべきかどうかを判断する。難しいことだと感じます。その見極めの精度も、経験を積むことで上がってきます。 

これは、日常生活においても、活用できる場面があるかもしれません。 

 そして反省の問題です。何か失敗すれば、人は反省をします。当然の行為です。問題は、いつ反省するか。ミスを犯した時に反省しがちです。そのミスについて考え、何故、このようなミスをしてしまったのかと頭を悩ませてしまいます。しかしミスを犯した時に、最初にすべきことは何か。それは、ミスを重ねず取り戻す努力をすることです。それを行わず、ただ反省をしても意味がありません。まずは、最善の努力を尽くす。反省はその後で十分できるということです。 

第七章 自然体の強さ

 道のりを振り返らない。前に進むことこそが重要である。これは、なかなか難しいことだと思います。どうしても過去の失敗を悔んだり、何を達成できたのか振り返りたくなってしまいます。しかし振り返ってしまうと、その道のりに応じた結果を求めてしまうというのも分かります。その時に今までの努力に応じた結果が出ていないと、前に進む気力がなくなってしまいます。過去のことを検証しても、それに囚われず前に進み続けることの重要性が分かります。進み続けることで経験を積み、成長していくのでしょう。 

 そして、前に進む時に重要なのが想像力と創造力。未来のことなど、誰にも分かりません。その未来について想像力を働かせ、どれだけ現実的なイメージを作り出すことが出来るか。先を思い描いていくことで想像力が養われていきます。想像力でイメージした未来を、創造力で現実のものとしていく。具体的に実践していく。想像力と創造力は、どちらが欠けても前に進んでいくことが出来なくなってしまうということです。  

第八章 変えるもの、変えられないもの

 変化のスピードが、以前に比べ激しくなっています。その変化のスピード感に追いつくには、もはや組織では太刀打ちできません。組織は意思決定に時間がかかるからです。個人の判断・決断により対応せざるを得ない時代になってきています。

 その決断に必要なものは、誰かに教えてもらうのではなく自分自身で獲得していかなければなりません。そして、獲得すべきものは目に見える部分だけでなく、水面下に潜んでいるものもある。それらに注視していくことが肝要だということです。しかし変化のスピードが早いからと言って、いきなり大きな変革を行うべきではありません。少しずつ変化を繰り返し、気が付いたら違う所にいた。そうすることで微調整が効きます。  

最後に

 棋士である羽生善治氏の著書なので、将棋を指す上での「直感力」について書かれていると思っていました。確かに将棋を指す上で必要なこととして書かれていますが、ところどころ人生訓のような書かれ方もしています。将棋と人生を重ね合わせているのかもしれません。ただ、将棋に必要なことがそのまま人生に応用できるかと言われると疑問も残ります。

 棋士の必要な要素としての「直感力」と、人生で必要な「直感力」。この二つが混ざり合ってしまい、核心が掴み切れない気がしました。