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『甲賀忍法帖』:山田風太郎|伊賀と甲賀。闇に蠢く忍術の数々。

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 以前から読みたい本の一冊でした。初出が1958年と言うのが信じられないほど、面白い。60年近く経っていても、色褪せない。

  • 伊賀と甲賀の忍者の戦い。
  • 10対10の団体戦。

 忍者同士の戦いで想像するのは、お互い鍛え上げた忍法を駆使し、その技量を持って勝敗を決す。忍者の常人離れした忍法に驚嘆したり、技の応酬に爽快感を感じたりもする。そういうイメージです。この作品には、それがない。

 読んでいて湧き上がってくる感情は、どろどろとした闇に纏わりつかれていく感覚です。彼らの戦いには、どこまでも救いがない。過去からの憎しみだけを頼りに、殺し合う。その理由とも言えない理由のために、残虐な殺し合いが続いていきます。殺すこと自体が目的であることも、この小説に陰惨な印象を与えています。 

「甲賀忍法帖」の内容

家康の秘命をうけ、徳川三代将軍の座をかけて争う、甲賀・伊賀の精鋭忍者各十名。官能の極致で男を殺す忍者あり、美肉で男をからめとる吸血くの一あり。四百年の禁制を解き放たれた甲賀・伊賀の忍者が死を賭し、秘術の限りを尽し、戦慄の死闘をくり展げる艶なる地獄相。【引用:「BOOK」データベース】 

「甲賀忍法帖」の感想

代設定

 舞台は、慶長19年4月に始まります。西暦で言うと1614年。大坂冬の陣が起こる年です。豊臣と徳川が緊張状態にある頃でしょう。

  • 三代将軍を誰に相続するか。
  • 嫡孫の竹千代か。
  • 次男の国千代か。

 その跡目争いを、甲賀と伊賀の戦いに委ねる。フィクションの設定としては少し無理がある気もしますが、それだけ難しい問題だったとの解釈も出来ます。また、現実の歴史と絡ませることで、この戦いに現実感を与えています。天正伊賀の乱のエピソードなどを挟むことも、現実感を与えるためかもしれません。もちろん、現実に有り得ない忍法ばかりです。フィクションと歴史の事実。このふたつを絡み合わせ、読者に現実とフィクションの狭間を漂わせます。 

 現実の歴史を背景に物語を描いていることで、戦いの結果は分かります。

  • 伊賀方は、竹千代。
  • 甲賀方は、国千代。

 この構図で戦いは始まります。三代将軍家光の幼名が竹千代。すなわち、伊賀方の勝利が確定しています。しかし、その結果に至る道筋がどのようなものなのか。いかにして、伊賀の勝利に導かれていくのか。結果が分かっていながらも、先が見えないような感覚に陥ります。  

法の数々

 甲賀方10人と伊賀方10人の合計20人による戦い。忍法として思い浮かぶ一般的な術。例えば、分身の術・変わり身の術・火遁・水遁・土遁の術などは登場しません。20人全てがオリジナルの忍法を使います。今まで思い描いていた忍法でなく、想像外のものです。現実に存在し得ない技ばかりですが。20人いるので、それぞれを書き出すとキリがないので書きません。 

共通して言えるのは、敵を殺すためだけの忍法だということです。 

 憎しみ合ってきた伊賀と甲賀。ただ、相手を憎み、殺し合う。そのための忍法は、常人離れを通り越し、非人間的な技になっています。有り得ない忍法だからと言って白けてしまう訳でなく、逆に、彼らの非人間的な残虐さを際立たせることにもなっています。彼らの忍法を描く文章表現は、目に浮かぶように緻密で詳細に描かれています。生き生きと描かれているのではなく、生々しい残虐さで描かれています。

 主要な登場人物が20人というのは、多いように感じます。しかし、彼らの個性は、その性格だけではありません。彼らの使う忍法自体が、それぞれの個性となることで20人全員の違いが際立ってきます。 

之介と朧

 服部家から忍法争いの封が解かれたことにより、過去からの宿怨に決着をつけるため戦うことを許された伊賀と甲賀。単なる忍者同士の戦いでなく、悲恋も加えたことで読み応えも増しています。伊賀と甲賀の400年にわたる宿怨に終止符が打たれるはずだった。それが、弦之介と朧の祝言。

  • 弦之介は、甲賀の首領:甲賀弾正の孫。
  • 朧は、伊賀の首領:お幻の孫。

 彼らの祝言が成れば、いずれ伊賀と甲賀の憎しみの歴史は閉じられるはず。そこに、戦いの許しが与えられる。 

 出来すぎなタイミングですが、運命と言うものは得てしてそういうものなのだろうと思わせます。しかし、この戦いの火ぶたが切られたことに抗うことが出来ないのも現実。弦之介と朧の祝言だけでは、この二部族の怨を止めることはできなかった。それほどまでに深く断ち切りがたい因縁だったということです。愛し合うふたりですら、止めることはままならない。彼ら二人の苦悩が、伝わってきます。 

甲賀ロミオと伊賀ジュリエット

 このタイトルの章があります。まさしく、ふたりはロミオとジュリエットとして描かれているのです。ただ、60年前の忍者小説の章タイトルにロミオとジュリエットを引用するのは斬新だったかもしれません。 

他メディアへ

 「バジリスク~甲賀忍法帖~」として漫画化・アニメ化がされています。 漫画は、せがわまさきにより、2003年から「ヤングマガジンアッパーズ」で連載されました。アニメは、この漫画を原作として、2005年4月から9月まで放映されています。 

 また、映画化もされています。2005年に「SHINOBI」のタイトルで、仲間由紀恵とオダギリジョーの主演で公開されています。映画の評価はあまり良くなかったようで、興行収入も製作費に届かなかったようです。原作にない設定を追加したり、かなりのアレンジを施したようですがそれが失敗の元だったのか。  

 私はどちらも観ていないので、いずれは漫画もアニメも映画も観てみたいと思います。そう思わせるほど、この小説は面白かった。