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『マツリカ・マジョルカ』:相沢沙呼|彼女の命令に従う時、彼の何かが変わっていく

 

 相沢沙呼のマツリカシリーズ第一弾。短編4編から構成される小説です。高校生の頃に読んでいれば、違った感想を持っただろう。もっと主人公である「柴山祐希」に共感できたかもしれません。だからと言って、全く共感出来ない訳でもありません。自分が高校生の頃を思い出し、自分自身と同じような部分があるなとも感じました。私もクラスの中心を占めるような立場でもありませんでしたし、周りに上手に合わせるという要領の良さもなかった気がします。主人公の彼ほどではないにしても、同じような思いを抱いていました。  

 しかし、やはり現役の高校生が読む方が、心に響くものがあると思います。何故なら、この小説は柴山祐希の成長の物語だと感じたからです。文庫表紙のイラストと青春ミステリという言葉でラノベ的なイメージを持ってしまいがちですが、根底に流れるのは、シリアスな物語だと感じます。 

「マツリカ・マジョルカ」の内容

柴山祐希、高校1年。クラスに居場所を見付けられず、冴えない学校生活を送っていた。そんな彼の毎日が、学校近くの廃墟に住む女子高生マツリカとの出会いで一変する。「柴犬」と呼ばれパシリ扱いされつつも、学校の謎を解明するため、他人と関わることになる祐希。逃げないでいるのは難しいが、本当は逃げる必要なんてないのかもしれない…何かが変わり始めたとき、新たな事件が起こり!?【引用:「BOOK」データベース】 

「マツリカ・マジョルカ」の感想

春ミステリ

 ミステリ作品となっていますが、どの謎を指してミステリと言っているのか。確かに謎は多いですが、解くべき謎として提示されている物はあまりないと思います。物語の構成上、大きな謎はいくつかあります。

  • 謎の女子高生「マツリカ」の正体
  • 「マツリカ」が各短編で解明しようとする怪談話
  • 各短編内の事件から生じる謎(第一話の供えられた花束や、第二話の11箇所目の幽霊など)

 「マツリカ」の正体は最も重要な謎ですが、それを明かすことが物語の主題ではないと感じます。彼女が謎の存在で居続けることで、柴山祐希は彼女の命令を聞き続けているからです。謎の存在だからこそ、理不尽で納得できない命令でも従わざるを得ない気持ちにさせています。彼はマツリカの正体を知りたいと思いながらも、積極的に正体を暴く行動に出ている訳ではありません。物語の結末で、彼はマツリカの正体を論理的に推論します。それが正しいかどうかの結論は描かれていません。彼の想像が正しいとしても明確な結果を描かずにいるのは、謎として残したいからかも。 

  次に、マツリカが解明しようとする怪談話。これについては、全くミステリの謎としての要素はありません。学校の怪談レベルの話で、答えが見つかるような代物ではありません。マツリカの単なる暇つぶし程度の位置付けでしょう。この怪談話を調べようとしている姿を描くことで彼女の行動の異質さを強調し、謎の存在に仕立て上げているのかもしれません。ただ、柴山祐希を学校内で行動させるために必要な設定ではあります。柴山祐希が学校内で活動することは、この小説の最も重要な要素だからです。 

 最後に、各短編内で生じる謎。これは、各短編を物語として成立させるために設定されているのでしょう。起承転結がないと物語として成り立ちません。怪談話の捜査だけでは、あまりに盛り上がりのない話になってしまうでしょう。もともと怪談話なんて、解決しようもない謎です。良くて、その話の出処を探るくらいにしかならないでしょうから。 

どの部分をもって、ミステリとなるのか。

 謎を解決していくことをミステリと言うなら、各短編で起こる謎の解明だと思います。事件が勃発し、その謎を解いていく。各短編をミステリ足らしめているのは、その事件でしょう。ミステリは各短編内の事件。各短編を貫く謎としてマツリカの存在。重層的な謎を敷き詰めることで、読者は常に謎を与えられているのです。そのことにより、先を読む手が止まらなくなるのでしょう。  

長の物語

 これらの謎が、一体何を引き起こしていくのか。柴山祐希を行動させるために存在している謎でしょう。マツリカの正体の謎があるからこそ、柴山祐希はマツリカの意味不明な怪談話の捜査のために行動してしまいます。謎の存在であるマツリカの命令が異様なものでも、そもそも彼女自体が謎なんだからおかしな命令でも仕方ないと思わせます。彼女が、美人だからということも理由でしょうが。 

 クラスに居場所がなく、自分が孤独の存在であることに諦めを抱いている柴山祐希。自分の社交性のなさを認め、自ら他人と関わることから遠ざかっている。そんな彼がマツリカの命令に従い、学校を歩き回り聞き込みをしようとする。望まなくても、他人と関わりを持たざるを得なくなる。その関わりの中で、彼は成長していきます。彼は人と接することから逃げ続け、他人との間に大きな壁を築いています。その壁を壊していかなければ、マツリカの指令をこなせない。嫌々ながらも、彼は周りの人間関係の中に身を投じていかなければならない。その過程で、彼はあることを認めます。ずっと前から知っていたこと。 

  • 世界は、それほど生きづらくないことを。
  • 教室のみんなは、わりと優しいってことを。 

 マツリカがこうなることを意図して柴山祐希を行動させたのかどうかは、明確に描かれていません。そうであったのだろうと思うことも出来ますし、結果的にそうなったとも受け止められます。ただ、前者であって欲しいと感じます。謎の存在であるマツリカが、より一層魅力的な存在として心に刻まれるからです。 

最後に

 ラノベとも言えるし、青春ものとも言えるし、ミステリとも言える。読み手によって、受け取り方は様々になる小説だと思います。際立っている部分があるかと言われれば、そうでないと感じます。ただ、これらの要素が混ざり合い、面白いし感動も与えてきます。柴山祐希に全く共感できないのなら、私の感想にも全く共感できないかもしれません。続編が、どのようになるのか気になるところです。