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『世界を変えた10冊の本』:池上 彰

 テレビで見ている池上彰さんの解説は分かりやすい。分かりやすい上に物腰が柔らかく上品で、それでいて主張すべきことはきちんとする。今、最も充実しているジャーナリストの一人だと思います。その池上彰さんの本を読むのは初めてです。

 本のタイトルの通り、池上さんが選んだ「世界を変えた10冊の本」。池上さんは、独断で選んだと断りを入れています。しかし、それでも内容を知っておくべき本であり、知っておいて損はない本であると書いてます。

 池上さんが独断で選んだ本は、 

第1章 アンネの日記

第2章 聖書

第3章 コーラン

第4章 プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

第5章 資本論

第6章 イスラーム原理主義の「道しるべ」

第7章 沈黙の春

第8章 種の起源

第9章 雇用、利子および貨幣の一般理論

第10章 資本主義と自由  

 恥ずかしながら浅学なので聞いたことのないタイトルも含まれています。ただ、タイトルを聞いたことがある本でも、きちんと読んだことがあるかと問われると「いいえ」と答えざるを得ません。

  • 初めて聞いた本。
  • タイトルだけを知っている本。
  • 何となく概要を知っている本。

 それらが混じっていますが、熟読した本は1冊もありません。第1章の「アンネの日記」にしても、タイトルは知っていますし、どのような内容かも知っています。しかし、最初から最後まで読んだことはありません。概要を知っているくらいです。改めて自分の知識と教養のなさを実感してしまいます。 

 池上さんは、この10冊の本の内容を紹介するだけではありません。どのように世界に影響を与えたか。これらの本の存在が、世界をどのように変えたのか。それを、分かりやすく説明しています。「宗教」と「経済」に関する本が多いと感じます。それだけ、宗教と経済は世界にとって重要であり、世界を変える力を持っているということかもしれません。この10冊の中でも、特に印象に残ったものの感想をいくつか書きます。 

第1章 アンネの日記

 ナチスが行ったユダヤ人の大虐殺。犠牲者の一人の少女。隠れ家生活の末、逮捕され、アウシュビッツで命を落とした少女アンネの日記。

 ナチスの恐ろしさや戦争の悲惨さを伝える日記のイメージでしたが、池上さんは、この日記から中東問題へと繋げます。ユダヤ人国家「イスラエル」が建国されたことから始まる中東問題。イスラエル建国に対し、西側諸国の世論は肯定的です。その理由の一つがアンネの日記にあると書いています。詳しいことは書きませんが、アンネの日記から中東問題へと展開する。そして、その理論的な筋道の立て方はさすがに池上さんだと舌を巻きます。 

第6章 イスラーム原理主義の「道しるべ」

 第3章の「コーラン」の後で読むと、今日のイスラム過激派のことがよく分かります。第3章で書かれていたイスラム教は、穏やかな宗教です。イスラム過激派が言う「ジハード」もコーランでは、無制限の戦闘を許している訳ではありません。その語源や解釈も分かりやすく解説されています。 

 では、何故、イスラム過激派が出現したのか。それが第6章の「道しるべ」です。この本は初耳でした。この本とこの本を書いた「クトゥブ」の主張を初めて知りました。イスラム過激派の源泉は、この本にあったのかと思い知らされます。同じコーランに基づきながら、何故、これほどまでに解釈が違ってくるのか。その解釈が極端なものなのか、納得するものなのか。それによって行動が変わってくるのでしょう。ただ、イスラム教が過激な宗教でないということは、よく理解できます。 

経済に関して

 第4章、第5章、第9章、第10章は、経済に関係する本です。私は、経済学部に在籍していました。しかし、ここに登場する本は、タイトルのみでほとんど内容を覚えていません。読んだことがあるのかどうかも疑問です。
 ウェーバー、マルクス、ケインズ。
 名前は、確実に記憶に残っています。しかし、著作を覚えていないということは、大学生活を有意義に使えていたのかどうか。改めて考えさせられます。

 それはさておき、池上さんは、出典から引用文を記載しています。この引用文が理解しづらい。経済の本は、わざと分かりにくく表現しているのではないかと思ってしまいます。もちろん、池上さんが分かりやすく解説してくれていますが。ただ、実際に読んでも完全に理解することは出来ないだろうなと思ってしまいます。池上さんのような解説が全編に付いていれば別ですが。 

終わりに

 10冊全てを読んでみたいと思った訳ではありません。ただ、何冊かは、一度読んでみるつもりです。そう思ってしまうほど興味を抱かせます。経済関係は敷居が高いので、アンネの日記から始めます。続いて、沈黙の春や種の起源。聖書やコーランも一度目を通してみたい。 

 「世界を変えた10冊の本」の内容とは関係ないですが、池上さんの文章は、テレビで語っているのと同様に分かりやすく頭に自然と入ってきます。池上さんは、多くのインプットを行い、それを分かりやすくアウトプットする。人に理解してもらうように説明するのは難しい。それも、万人に対してなら猶更です。それを実現している池上さんの能力に脱帽しました。