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『深夜特急4 シルクロード』:沢木耕太郎|シルクロードの長距離バスは凄まじい

 第3巻「インド・ネパール」で、ようやく本来の旅の出発地であるデリーに辿り着きます。デリーでの出来事は、第1巻「発端」において既に詳細に描かれています。第4巻は、発端の続きです。デリーを出発するところから始まります。少しだけ、回想としてデリーの様子を書いていますが。 デリーでの退廃した生活から抜け出し先に進む。とにかく、デリーを、インドを抜け出さなければならないという切実感を感じさせます。インドは、バックパッカーにとって恐ろしい国なのかもしれません。 

 これまで通ってきた東南アジア・インド・ネパールなどは、国名を聞くとイメージが沸きました。しかし第4巻で旅をするパキスタン・アフガニスタン・イランは、あまりイメージが沸きません。どんな文化で、どんな生活をしているのか。政情不安定な国という漠然としたイメージしかありません。それも、誤ったイメージなのかもしれませんが。 

 著者が旅した1970年代と、今では情勢が違うと思います。しかし、日本人にとって身近でない国だったことには違いないでしょう。 

「深夜特急4 シルクロード」の内容 

パキスタンの長距離バスは、凄まじかった。道の真ん中を猛スピードで突っ走り、対向車と肝試しのチキン・レースを展開する。そんなクレイジー・エクスプレスで、〈私〉はシルクロードを一路西へと向かった。カブールではヒッピー宿の客引きをしたり、テヘランではなつかしい人との再会を果たしたり。前へ前へと進むことに、〈私〉は快感のようなものを覚えはじめていた―。【引用:「BOOK」データベース】 

第十章 シルクロードⅠ

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 インドから乗り合いバスに乗りパキスタンへ。本来の目的である旅をスタートさせます。まず注目するのは、インドのバスの情景です。家財道具一式ほどの荷物を持ち、移動するインドの人々。とても安全に走行できるようには思えない。著者も心臓に悪いと言っています。この移動の間にも、他の国のバックパッカーたちとすれ違っています。このような旅を行っている人たちには、一種の連帯感でもあるのだろうか。すれ違うだけの人々に、著者も複雑な心境を抱いています。それは好意的な感情のようです。

 私は、パキスタン人の国民性についてのイメージは全く持ち合わせていませんが、著者が出会った人々はとても親切な対応をしてくれています。その一方、東パキスタン、バングラ・ディシュに対する彼らの態度はあまりにも冷たい。その国々での状況があるにしても、その二面性に彼らの複雑な事情と感情があるのでしょう。

 パキスタンでの著者の移動スピードはかなりのものです。とにかく、どんどんバスを乗り継ぎ先を急いでいます。一気にパキスタンの首都「イスラマバード」の手前、「ラワール・ピンディ」まで行ってしまいます。パキスタンの国について、あまり詳しく描かれていません。これまでの国のように、どっぷりと浸かる暇がなさそうなくらい忙しい。

 今度は、パキスタンのバスについての著者の印象が語られていきます。インドのバス以上の危険さが描かれています。命の危険を感じる運転です。しかも、それがパキスタンでは普通らしい。パキスタンでは、あまり一か所に滞在せずどんどん先へ進んでいきます。パキスタンの深みのある部分が、あまり見えてこない。その中で、最後に数日滞在した「ペシャワール」は著者に刺激を与えました。とりわけ、バザールが気に入ってます。どうも著者は、バザールの良し悪しで街に馴染むかどうか決めているように感じます。 とにかく、パキスタンはあまりに足早に通り過ぎたせいであまり印象に残りません。そして、アフガニスタンへと足を踏み入れていきます。 

第十一章 シルクロードⅡ

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 1970年代のアフガニスタンの情勢は良く知りません。

  • ソ連軍によるアフガン侵攻が1970年代末。
  • 2000年初頭からは、タリバン政権による混乱。

 危険な地域という認識を持っています。著者が訪れた時は、まだ、ある程度の安定はあったのだろうか。アフガニスタンのカブールでの滞在が、著者の予想に反し長くなっています。魅力的だったというよりは、デリーからの旅の疲れのせいです。

 その滞在中に、やはり普通の旅行では経験しないようなことを経験していきます。現地のホテルで滞在費を負けてもらう代わりに客引きをしたり、7~8人で同じドミトリーに滞在している日本人のバックパッカーたちと交友を深めたり。いかにも著者らしい経験です。そのカブールを出発するきっかけが面白い。大使館に届いた手紙から、知り合いが5日後までイランのテヘランにいると知ります。その知り合いに御馳走してもらおうと、ただひたすらテヘランを目指すことになります。

 この移動も一筋縄ではいかないバスでの行程が待っています。様々な国のバックパッカーを乗せたバスで3日間。同乗する人々に奇妙な連帯感みたいなものが感じられます。それも面白い。なんだかんだ言っても、何とか間に合わすところが著者の執念かもしれません。 

第十二章 シルクロードⅢ

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 テヘランは、知り合いに会うために奔走する様子から始まります。彼らを見つけ出すと御馳走を受け、日本語での会話に束の間の安息を感じています。やはり著者と言えども、日本語での会話に飢えていたということでしょう。   

 しかし、知り合いと別れるとすぐにテヘランに飽きてしまいます。予想以上の都会ということが、著者の琴線に触れなかったのかもしれません。そこで次の行き先を決めます。街に飽きたら、次の町を目指す。しかも、行き先は決まっていない。その都度決めていく。自由な旅であるが、危険と責任を背負わなければなりません。そして次のルートを決めた理由は、砂漠を見たかったから。なんて自由なんだろうか。 

 テヘランを出発してから、著者らしい旅になったように感じます。現地の老人たちの生き方を心で感じ、子供たちの熱狂に交じり心を躍らせる。

  • 外国のバックパッカーとの出会い。
  • 日本人との出会い。
  • バザールでの駆け引き。 

 デリーを出てから移動ばかりの旅だったが、ようやくその国の深いところに心を馳せた瞬間だったように感じます。 

旅の続き「深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海」